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2011年11月19日 (土)

NICOLAの普及へ向けての一試論(下)(親指シフト導入記26)

2 キーボードのレンタル・サービス

2・1 専用キーボードの敷居の高さ

 親指シフト普及の大きな障害の一つが、「専用キーボードの高価さ」にあることは周知の事実である。据え置き型のFMV-KB232が約3万円、携帯型のサムタッチでも1万5000円というのは、この不景気なご時世にはやはり敷居が高い。

 まあ富士通サイドとしては、採算が取れるギリギリのラインで価格設定をしているのだろう。しかしその採算にしても、けっして多いとはいえない親指シフターの過度な負担に支えられていることは、忘れられるべきではない。(注)

 (注)将来、専用キーボードがなくなることに備えて、余分に買いこんでいるユーザーは相当数、存在するものと思われる。

 とにかくこのままではジリ貧になるばかりであるから、なんとしてもユーザー層を拡大する必要があるわけだが、かといって今さら中途半端に価格を下げてみてもユーザー数が劇的に増えるとは思えず、そうなれば赤字が一気に拡大して、親指シフト部門本体の存続が危うくなりかねない。

2・2 中古キーボードのレンタル・サービス?
・基本的な手順

 というわけでなかなか難しい状況にあるわけだが、ここは一つ思い切った手を打ってみてはどうだろう。たとえば、専用キーボードの中古品を一定期間、安価な値段でレンタルするのである。(注)

 (注)本当は無料でレンタルするのが望ましいのだろうが、フリーライド(ただ乗り)を繰り返すユーザーや採算の問題もあったりするので、一定額のレンタル料を徴収するのが妥当なところかと思う。

 「親指シフトは敷居が高そう」と思っているユーザーには、とにかく専用機種での試用の機会を提供するしかない(通常のJISキーボードでは、本来の打鍵感を味わうことはまずできないことは、これまで散々、繰り返してきた)

 だいたい一月から二月ほどの試用期間を与えて、期日が来たら正規の価格で買い取るか(もちろんその場合は新品と交換する)、返却するかをユーザー自身に判断してもらう。回収したキーボードは洗浄処理して、次の試用に回す…

 前回の記事で書いた主婦層やシルバー層への営業にも、当然このレンタル・サービスを採用する。そして、買い取りが決まった場合は、査定をアップするなどすれば、販売員の励みにもなるかもしれない。

 また営業に際しては、タイピング練習の手順やJapanistとの併用が望ましいこともレクチャーするようにすると、なお効果的であろう。(注)

 (注)Japanistの64bit版が正規に発売されたら、32bit版は(ある程度の機能制限をつけて)無料お試し版としてダウンロードできるようにするべきだと思う。
 NICOLA本来の操作性を体感するには、専用キーボードとJapanistの併用が不可欠なのだから。

・課題

 もちろん、このサービスを実現するためのハードルは山ほどある。

 たとえば、回収作業やキーボードの修理・洗浄などでかなり経費がかかりそうな反面、レンタル料をあまり高くすると利用者自体が増えないという二律背反状況に絶えず晒されることとなるので、安定した採算を確保するのはなかなか難しそうなのだ(苦笑)

 また、(レンタル期間の)ただ乗りを繰り返す者や回収に応じない不届き者にどう対処するかや、レンタル期間中の故障をどう判定するのか(中古品だけに責任の所在が特定しにくい)など、難儀な問題に直面しなければならない可能性も高い。

・まとめ

 しかし、こんな具合でお試し期間を設定することは、他の多くの製品で普通に行なわれていることである。まあ、いろいろと課題はありそうだが(汗)、もしこれでユーザー層を少しでも拡大できればしめたものだろう。

 繰り返すが、実際に専用キーボードで入力する経験を積んでもらわない限り、親指シフトの良さは一般ユーザーにはなかなか伝わらないと思う。

 筆者の案(≒妄想)はきわめて初歩的なものであるが、この凝り固まった脳みそではこれくらいしかいい案が思い浮かばない(涙)。他にも一般ユーザーに親指シフトのメリットを体感させるよい案があったら、ぜひお教え願いたいところである。

3 非・アルファベット圏への売り込み

3・1 海外への輸出可能性

 もともと親指シフトは日本語入力に特化する形で開発されたが、2つの親指シフトキーを駆使した入力システムは、日本語以外の言語(とりわけ、非・アルファベット系言語)のキー入力にも応用できる可能性を秘めているように思う。(注)

 (注)そのなかでも、縦書きと併用する言語(中国語・ハングル・モンゴル語など)とは相性がいいような気がする。

 もちろん、各言語の特徴によってキー割当や入力スタイルは変わってくるはずだから、NICOLAをそのままの形で輸出することはできないだろう。

 しかし、親指シフトキーを駆使する各言語の入力システムが確立されれば、専用キーボードに少し手を加えて売り込むことは可能かもしれない。

 またJapanistの変換システムも、各言語にうまく翻訳?することができれば、(キーボードとセットで)売り込める可能性が開けてくる。(注)

 (注)ただしそのためには、Japanistという名称は変更する必要があるかれしれない。
 特に東アジアでは対日関係にいろいろと難しい問題を抱えているため、イデオロギッシュな意味合いを含んだネーミングは(親指シフトの普及や売り込みのためにも)避けた方がいいように思うからである。

3・2 親指シフト文化を維持するために

 筆者がこのように海外への売り込みを推奨するのは、人口減少社会に突入した日本の市場に(当面は)過度な期待を持てないからだ。(注)

 もちろん、シルバー層という未開拓の領域が残されていることは確かであるが、彼らの生活を支える若年層の生産性が伸びなければ、高齢者の消費も伸び悩み、社会全体の市場は縮小する一方ということになるだろう。
 そうなってしまえば、親指シフトなどというマイナーな文化は真っ先に滅びてしまう可能性がある。

 しかし、うまく親指シフトキーボード(及びJapanist)を世界へ売り込むことができれば、日本の景気および人口動態が回復するまで、なんとか親指シフト文化を(海外経由で?)守ることができるかもしれない。そんな風に思うのである。

 ウィキペディアによれば、理論モデルの提案はすでにいくつかなされているようだ。今後は各国の研究者や企業などと共同開発を進めて、早急に製品化を進めることが望まれよう。

 志と能力のある方はぜひ、この件についてご一考いただきたく思う。(注)

 (注)なお、親指シフトの世界標準化については、既にこちらのサイトで詳細な検討がなされているので、関心のある方はぜひご覧いただきたい。筆者の与田話(笑)よりもはるかに高度で専門的な議論が展開されている。

4 個々の親指シフターにできること

4・1 企業には過度な期待できない?

 以上、親指シフトを普及させるための処方箋についてあれこれ妄想してきたわけだが、おそらくこれらの案のほとんどは、既に関係者の間で検討済みだと思う。にもかかわらず、これらの案が実行に移されたという話は、寡聞にして聞いたことがない

 人員的・経費的に難しいのか、親指シフト製品ではもはや採算が取れないと判断されているのか、その辺りの真相は不明だが、ここ十数年、富士通さんには親指シフターを増やそうという積極的な意志があまり感じられない(結果が出ていないだけなのかもしれないけど…)

 まあ富士通も営利企業だから、(目に見える)利益の出ない製品には自ずと力が入らなくなってしまうのかもしれない。となると、あとは個々の親指シフターがユーザー層の拡大に努めるしかない、ということになりそうである。

4・2 小さなことからコツコツと
・さりげない勧誘

 もちろん、親指シフターにも生活がある。それを壊してまでNICOLAの普及(布教?)に努めよ、などと無体なことを言っているのではない。

 たとえば、友人や同僚・家族のメンバーなどの身近な人に、さりげなく(←ここ大事)親指シフトを勧めてみる。そんな小さなことから始めればいいのだと思う。むろん、個人のブログやHPなどで親指シフトについての情報を発信するのもありだろう。

・声を出し続けることの大切さ

 「そんなことは、とっくの昔から行なわれているよ。でも、結局ユーザーはたいして増えていないじゃないか」。そんな悲観的な声がどこからか聞こえてくる(筆者の幻聴だろうか?)

 しかし、親指シフター自身が声をかけるのを断念してしまったら、それこそユーザー層の先細りに拍車がかかるだけだろう。

 また、リアル環境であれネット上であれ、ある人が上げた声というのは、必ず誰かに届くものだ

 たとえば筆者が親指シフトを習得していく過程で、ネット上に残された様々な声(HPやブログの記事、2chの書き込み、等々)が大いに参考になった。その中には、(書いた本人も忘れているかもしれない)何年も前の記事や書き込みが多数、含まれている。

 これはつまり、発信した直後にはそれと分かる反応がなくても、ある程度のタイムラグを経て、その言葉(情報)が誰かに伝わる可能性があることを示している(少なくとも、先輩親指シフターのいくつかの言葉は、筆者という後輩に確実に伝わっています)

 だからすぐには結果が出なくても、あきらめずに声を上げ続けよう。そうすればいつか誰かにその言葉が届いて新たな親指シフターが誕生し、その人がまた新たに声を上げることで、親指シフターの輪が未来へと拡がっていくのかもしれないのだから。(注)

 (注)ちなみにこの一連の記事(親指シフト導入記)も、そのような意図で書かれています。

4・3 親指シフトを使って何ができるか
・「成果を上げる」ということ

 もうひとつ重要なことがある。それは、親指シフターが自分の仕事で成果を上げることだ。たとえば、事務屋さんなら書類をバリバリ仕上げる。作家やライターさんなら、面白い記事や作品をたくさん世に出す。

 そうした成果を積み重ねることで、その人が社会的に成功すれば(要は出世すれば)、周囲の人々が彼(女)を見る目も自ずと変わってくるだろう。それまで鼻で笑っていた親指シフトについても、まじめに取り組む人が出てくるかもしれない(笑)(注)

 (注)事実3年ほど前、親指シフトへの関心が一時的に高まったことがあったが、これは(社会的成功者である)勝間和代氏の本がベストセラーになったことによって引き起こされたのであろう。著名人の影響力は侮れないものである
 もっともその後、NICOLAをきちんとマスターした人がどれだけいたかは定かではない。少なくとも筆者の周辺では、親指シフターが目に見えて増加したという形跡はなかった。
 勝間女史の本では、Japanistについては触れられていなかった(と思う)ので、せっかく彼女の影響でNICOLAの練習を始めても、本来の快適な打鍵感を味わえずに挫折してしまった人が、少なからず含まれていたのかもしれない。
 とはいえ、彼女のおかげでそれまでジリ貧状態にあった親指シフトに(一時的にとはいえ)世間の耳目が集まったことは確かである。その点については正当に評価されるべきであろう。

・親指シフターの心がけるべきこと

 それゆえ、ユーザーはまずは自分の本業に力を注ぐべきであり、余裕があったら親指シフトについての情報発信も行なう。それが真っ当な親指シフターのあり方なのだと思う。

 そしてそうした日々の積み重ねの果てに、そのユーザーが出世して社会的な影響力を持つようになれば、それは本人にとってもめでたい?ことであるし、親指シフトの普及にとってもポジティヴに作用することだろう(勝間効果を想起されたし)

 大切なのは「親指シフトを使えるかどうか」ではない。「親指シフトを使って何をなし遂げるか」である。そのことを一親指シフターとして忘れないようにしたいと思う。

 (以下、次号)

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