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2011年11月18日 (金)

NICOLAの普及へ向けての一試論(上)(親指シフト導入記25)

0 はじめに

 前回の記事のラストで筆者は、「本質的に良いものは残っていくだろう」という趣旨のことを書いた。NICOLA(とそれにまつわるソフトやハード)もそのような文化=作品の一つだと、個人的には確信している。

 しかし同時に、どんなに優れた文化であっても、その担い手がいなくなれば容易に衰退し滅んでしまうということも、紛うことなき事実だったりする。人々の生活から切り離された文化(たとえば、博物館の展示品など)は、「生きた文化」としては既にその使命を終えてしまっているのだ。(注)

 (注)その伝で言えば、2010年にOASYS 100と親指シフト が情報処理技術遺産に指定されたこと(こちらを参照)は、けっして喜ぶべき事態ではないのかもしれない。
 ある種の文化遺産に指定されたということは、「国による保護を必要とするほどその文化が衰退してしまった」ということと同義でもあるのだから。

 したがって、親指シフトという貴重な文化を死滅させないためにも、それを日常的に使用する人の数をもっともっと増やす必要がある。プロの物書きや一部の好事家の御用達のままでは、文化として先細っていくしかないからだ。

 そこで以下では、NICOLAのユーザー層を少しでも拡大させるための方策について、あれこれ考えてみることにしたい。

 ただし、実現可能性については一切考慮していない(笑)素人の与田話であることを、あらかじめお断り申し上げておく。どうかネタと思って笑ってやってください。

1 ユーザー層の開拓について

1・1 サラリーマン層
・(かつての)メインターゲット?

 富士通さんがこれまでどのような営業戦略で親指シフト(関連の製品)を売り込んできたのか、寡聞にして筆者は知らない。

 ただ、もともとこの会社が企業向けの大規模システムを得意としてきたことを考えると(ウィキペディアの記述を参照)、親指シフト製品のメイン・ターゲットもこれらの企業や官公庁に勤めるサラリーマン層だったと推測される。

 しかし、親指シフトの劣勢が誰の目にも明らかな現在、従来通りの営業戦略、すなわち勤労者層層をターゲットにしていてはダメだということは、明々白々であろう

・売り込みが難しい理由

 そもそも会社に勤め出してから親指シフトを習得すること自体が至難の業であるのかもしれない。

 たとえばキーの配列を覚えるためには、毎日30分から1時間ほどタイプ練習をするのが望ましいわけだが、現在の日本の労働環境を考えると、そうした時間さえ取れないという人の方が多数派なのではあるまいか?

 また、親指シフトで無意識的に入力できるようになるためには、ローマ字入力を封印することが不可欠である(最初から両刀遣いを目指そうとすると、どちらも中途半端になる可能性が高い)

 しかし、職場のパソコンの使用制限によって親指シフトを擬似的に運用することもできず(あるいはその方法を知らずに)、結局、ローマ字入力へと戻っていくようなケースも少なくないものと思われる。(注)

 (注)あるいは、こんなケースも考えられる。入力スタイルの切り替えに際して作業効率が一時的に低下せざるを得ないことについては既に言及した(こちらを参照)
 しかし、そうした一時的な生産性の低下(といっても、文書の作成に多少時間がかかる程度のものなのだが)さえ許容しないような雰囲気の中で働いている人も、かなり多いのかもしれない。
 さらに言えば、同調圧力の強い日本の職場においては、ローマ字入力が支配的なスタイルである現在、親指シフトを使用すること自体がある種のスティグマになるとも考えられる。「いちびっている」「変わり者」というレッテルを貼られかねないわけだ(ちと考えすぎか(笑))

 このように考えると、サラリーマン(勤労者)層に親指シフトを浸透させるのは、(経営者を説得してトップダウン的に導入でもさせない限り)至難の業と言えるのかもしれない。

1・2 大学・学校関連
・富士通との関係がネック?

 次にターゲットとして浮上してくるのは、学校や大学といった教育機関である。しかし、これらの機関で積極的に親指シフトが導入されたという話は、寡聞にして聞いたことがない。(注)

 (注)ちなみに筆者は1990年ごろ、つまりまだ親指シフトのユーザーが多かった頃に大学生活を送っていたわけだが、大学でNICOLAの入力法を教わったり、専用キーボードの設備を見かけたという記憶が全くない。

 神田泰典氏の弁によれば、どうやら親指シフトと富士通の関係が危惧されたらしく、「将来富士通に従属してしまってまずいというような理由から、キーボードの良し悪しを別にしてJISを採用して」いたとのこと。

 この状況が現在も続いているとすれば、少なくとも(旧)国公立の学校や大学への売り込みは難しいということになる。(注)

 (注)親指シフト規格の権利を富士通は88年に日本語入力コンソーシアムに譲渡しているのだが、現時点で関連製品を扱っているのが富士通以外にはほぽ皆無であることを考えると、事態は20年前とさほど変わっていないと言えるのかもしれない。

・説得の困難

 また、既にシェアの面で決着のついてしまっている製品を公的機関があえて導入するなら、それなりに説得力のある理由を提示しなければならないわけであるが(特に近年は)、「入力速度が多少アップする」程度の理由では、もはや採択の決め手にはならないような気がする。(注)

 (注)筆者自身は、親指シフトをマスターすることは日本語の操作能力(とりわけ、長文を書く能力)を高める上で大きな一助となると思っている。しかし、そのことを示す実証的なデータを持ち合わせていない。
 どなたかがこの方面の研究を進めてくれることを切に願うばかりである。

 したがって、教育機関への売り込みの方も、なかなかに困難な課題であることが分かってくる。(注)

 (注)もちろん、親指シフトをマスターするのは若いうちに越したことはないので、今後も粘り強く学校機関への営業活動は続けるべきだし、文科省へのロビー活動も積極的に行なうべきだとは思うが。

1・3 (子育て期の)主婦層

 では、もはや親指シフトを売り込む先はないのだろうか?いや、まだ未踏の領域?があるはずだ。たとえば主婦層などはどうであろうか。

 現在は既婚女性も働く(働かざるを得ない)時代ではあるが、出産後は(しばらくの間)育児に専念する女性がまだ多いようなので、そういった女性陣に狙いを定めて売り込みを図るのである。

・時間的余裕?

 この層が市場として有望そうな理由の一つは、フルタイムの勤め人に比べて、自分がコントロールできる時間をある程度は確保できそうなこと(特に子どもが就学年齢に達してからは)

 つまり、彼女たちはダンナに比べて親指シフトをマスターしやすい立場にいると考えられるのである(違っていたらゴメンナサイ)

・書くことへのニーズ

 しかしそれ以上に大きいのは、「書くこと」への強いニーズをこの層が抱えているように思えることである。

 たとえば、育児日記をブログにアップしている主婦はけっこう多いが、その中にはもっと多くのテーマについてたくさんの文章を書きたいと思っている人も、少なからずいることだろう。

 そういった女性層に、優れたライティング装置として親指シフト製品を売り込むわけである。

 また、「別に携帯のままでいい」という女性に対しては、Japanistの入力予測機能を紹介して、「家計簿の入力が楽になりますよ」などと吹き込むと、案外、食いつきがよくなるかもしれない。(注)

 (注)Japanistが定型文書の処理に強いということは、もっと強調されて然るべきだと思う。育児終了後の社会復帰に備えてスキルアップを志している主婦にとっても、この点は魅力的に映るはずだ。

 こういった主婦層をうまく取り込むことができれば、彼女経由でダンナや子ども、さらには「ママ友」へと親指シフトの輪が拡がっていく可能性もある

 まあ、現実にはそんなにうまく事は進まないだろうが(笑)、ともあれ「書くこと」に対する女性陣のニーズについては、もっと注目されてもよいだろう(なにしろ、清少納言と紫式部を輩出したお国柄である)

・まとめ

 親指シフトというと、とかくオタッキーな(失礼!)物書きのツールというイメージが強いが(いつからそうなってしまったのだろう?)、これまで縁が薄かった(と思われる)主婦層をうまく取り込むことができれば、そうしたイメージも払拭され、新たなユーザーの獲得にも繋がるかもしれない。

 販促担当の方(富士通にまだいるのかしら?)はぜひ上記の点を鑑みて、新たな営業戦略を構築していただきたく思う。(注)

 (注)ただし主婦層をターゲットとするなら、自宅への戸別訪問といった泥臭い営業が不可欠であろう。学問に王道がないように、営業も地道に足で稼ぐしかなさそうである。

1・4 シルバー層

 親指シフトの潜在的な顧客層として、主婦層以上に筆者が期待しているのが高齢者層である。こう書くと怪訝な顔をする人も多いかもしれない。

 高齢者は認知と身体双方の能力が衰えて来るから、複雑な操作は苦手なはずだ。彼らが求めているのは、もっと直感的な操作が可能な製品(たとえばタブレットなど)であって、親指シフトなどは彼らのニーズからもっとも遠いものではないか?

・高齢者層の可能性

 しかしこうした考え方は、高齢者の能力を過小評価しているように思う。彼らの中には認知的にも身体的にもすこぶる壮健な人が少なくない。仕事を続けたいと思っている人も多いようだし、大学に入り直して学位を取ることを目指す向学心の強い方もおられるようだ。

 また、悠々自適に余生を過ごしている高齢者の中にも、自分のこれまでの人生を振り返って(自伝とまではいかなくても)一筆残しておきたいと思っている方は、けっこう多い。

 高齢者の中に潜んでいる(書くことや発信することへの)こうしたニーズをうまく掘り起こして、それを親指シフトと結びつけることができれば、ユーザー層をかなり拡げられるのではないか?そんな風に筆者は妄想している。

・親指シフトの習得に向いている理由

 実際この層には、親指シフトの習得に適している面が多い。たとえば、以下のような点が挙げられるだろう。

  • タイプ練習につぎ込むための時間的な余裕がある
  • 世代的にローマ字入力よりは、かな入力の方がフィットしそうである
  • パソコンの初心者(高齢者層の中ではかなりの比率を占めているだろう)は、ローマ字入力の先入観のない分、かえってすんなりと学習に入れるだろう

 問題は既にローマ字入力に馴染んでいる御仁をどう転向(笑)させるかだが、これについては日本語(とりわけ縦書き)と親指シフト入力との適合性について、地道に説いていくしかないのかもしれない。

・高齢者への売り込みの意義

 そのほか、新しい入力スタイルをマスターすることがぼけの予防となり得ることや、ブログを書くなどネット上で情報発信をすることで、年齢と共に失われがちな人的ネットワークをカバーできる可能性があることなども、売り込みのための良き説得材料となるだろう。

 今後、高齢化がさらに加速化する日本社会において、高齢者層は単に有望な市場であるにとどまらない。長年の人生で培った叡知のようなものを高齢者自身が積極的に発信することが、よりよき成熟社会を形成していくための一助となるかもしれないのである。

 なんだか話が膨らみすぎてしまった(汗)。いずれにせよシルバー層というのは、親指シフトを普及させる上で様々な可能性を秘めたフロンティアの一つだと思う。

 ぜひこの層への売り込みについても(習得プログラムの開発と共に)真剣に検討していただきたく思う次第である。

 (以下、次号)

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