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2011年11月14日 (月)

自宅外でNICOLAを運用するには(下)(親指シフト導入記21)

5 既存の入力スタイルとの共存について

 さて、ネットワークの制限事項などによってエミュレータも利用できないとなると、あとは既存の入力スタイル(ローマ字入力、あるいは、JISかな入力)で文書を作成するしかない、ということになる。

 こうした状況にどう対処すべきなのだろうか?

5・1 ローマ字入力との棲み分け
・2つのスタイルの併用

 まずもっともシンプルな解決策は、会社ではローマ字入力、自宅ではNICOLAというように、入力スタイルを切り換えて運用していくことだろう。

 以前も書いたように、親指シフトをマスターしたからといって、それ以前に使用していた入力スタイルが完全に忘れ去られてしまうわけではない。

 普段から英字は直接アルファベットで入力するよう心がけたり(クイック和英などは使わない)、気が向いたら一時的にローマ字入力を行う(こちらを参照)などしていれば、比較的容易に運指能力を回復させることができるのではないだろうか。

・切り換えに伴うストレス

 ただ、この方法には2つの問題点がある。一つめは、2つの入力スタイル(正確には、それらを運用する認知・身体システム)のバッティング問題。

 ふだんNICOLAを利用しているユーザーがローマ字入力に切り換えた場合、以前の感覚が戻るまでは相応の時間がかかる。その間はどうしてもミスタッチが増えるので、作業効率の多少の低下は避けられないだろう。

 そして、そこから再びNICOLA入力へと切り換えた時、また同じ症状が発生し、ユーザーは作業効率の低下とそのストレスにしばしの間、悩まされることとなる…

 ただ、切り替えに伴うこうした機能不全については、あまり神経質にならなくてもいいのかもしれない。経験を積めばそうした症状にも慣れっこになってしまうだろうし、切り替えにかかる時間も(ゼロになることはならないだろうが)次第に短くなっていくように思うからである

・疲労の問題

 2つのスタイルを併存させる上でもう一つネックとなってきそうなのが、(主観的な)疲労度の問題。

 周知のとおり、かな入力(NICOLAを含む)に比べてローマ字入力では打鍵数がかなり増えることになるので、長時間入力していると身体にかなり響いてくる。

 しかし、(ローマ字入力で)同じ量の文章を同じ時間打ったとしても、ローマ字入力しか知らないユーザーと親指シフトと併用しているユーザーとでは、主観的な疲労度が全然違ってくるだろう。

 後者にとってローマ字入力での文書作成は、(たとえ運指能力がある程度まで回復したとしても)よりストレスフルなものとならざるを得ない。NICOLAの快適な打鍵感と作業効率を無意識のうちに念頭に置いて比較してしまうからである。

 もちろん、こうした問題も経験を積めば多少は緩和されるのかもしれない。しかし、長期的な視点で考えると、欲求不満を抱えながら作業している人とそうでない人とでは、パフォーマンスや周囲の人々に与える影響の点で、何らかの差が出てきてしまう可能性は否定できない

 このように考えると、「NICOLAとローマ字入力との共存」というのは、口で言うほどたやすいことではないようにも思えてくるのである(ちと考えすぎかもしれないけれど…(汗))

5・2 JISかな入力の採用?

 では、JISかな入力についてはどうだろうか。筆者はこの配列に疎いので、あまり確かなことは言えない(以下は思い切り印象論なので、その旨ご了承ください)

・両立は難しそう

 ただ、NICOLAとの併用はローマ字入力以上に困難であるように思える。ローマ字入力の場合は、NICOLAとは操作体系が完全に異なっているので、両者の棲み分けはある意味でしやすかった。

 しかし、JISかなとNICOLAは(ともに「かな入力」ということで)操作性の点でかなり被る面があり、両者を併用した場合の(認知・身体システムの)干渉の度合いは、より大きくなる可能性が高い。

 つまり、スタイルの切り替えに要する時間と労力が、ローマ字入力の場合よりもずっと多くかかりそうなのである(もちろん、経験と訓練を積めば速やかに切り替えられるようになるのかもしれないが)

・習得のモチベーション

 また、ローマ字入力しか知らない人にとっては「打鍵数を(多少は)減らせる」というメリットはあるものの、既にNICOLAをマスターした人にとっては、操作性についてのメリットはほとんど感じられないだろう。

 覚えなければならないキーの数は多いし(4列のキーを使う)、タッチタイピングも難しい。英数字を入力するにはいちいちモードを切り換えなければならないし、小指シフトキーを多用するので、疲労度も高そうだ。

 このように操作性の面で明らかに劣ると分かっている入力スタイルをまた新たにマスターしようというモチベーションは、そうそう沸くものではない。そして、習得にかかる時間もNICOLAと同じかそれ以上かかるように思われる。

・環境を選ばない

 しかし、JISかなキーボードが日本のデファクト・スタンダードであるというまさにその一点において、この入力スタイルは強い効力を発揮する。少なくとも日本国内では環境を選ばずにこのスタイルで入力することができるのだから。

 したがって、専用キーボードもエミュレータも導入できないような環境で文書作成を行なわざるを得ない人や、入力スタイルの切り換えに伴う作業効率の低下に我慢ができない(あるいは、あらゆる環境で同一の入力スタイルを保持したい)ような人については、JISかな入力を新たに導入する価値はあるのかもしれない

 習熟すれば(NICOLAほどではないにしても)ローマ字入力を凌ぐ作業効率を達成できそうだし、(多くの親指シフターがそうであるように)「いつ富士通が親指シフト関連の業務から撤退するのか」と不安に晒されることもなくなるのだから(笑)

 ただそれ以外の人については、あえてJISかな入力を導入するには及ばないのかもしれない。それこそエミュレータや専用キーボードを導入したり、上司や管理者に掛け合ってソフトの導入を認めさせるという選択肢も十分あり得るからである。

6 暫定的な結論

 要は、自分の置かれた環境をよく見極めて判断することである。確かにNICOLAは3点セットでの運用が望ましいが、前の記事でも書いたようにATOKでも設定を変えることによって、Japanistにかなり近い操作性を実現することができる。

 また、USB接続の普及によって、専用キーボードの導入は以前よりも確実にしやすくなっていると言えるだろう。

 問題はエミュレータの導入だが、これについてもレジストリには影響を及ぼさないことや、作業効率がアップすることなどを上司や管理者に粘り強く説得すれば、受け入れられることもあるかもしれない(「変わり者」と思われるリスクはあるが…(苦笑))

 このように考えると、「会社などでNICOLAを(擬似的に)運用する術というのは案外あるものだ」ということが分かってくる。

 もし、専用キーボードやJapanistが備えつけられていないとの理由で親指シフトの使用を断念してきた人は是非、こういった手法を試してみていただきたい。満点とはいかなくてもかなりの程度の操作性は確保できるはずである。

余談

 なお、既にお気づきだとは思うが、ここでの議論はあくまで職場や学校での「卓上使用」を念頭に置いており、屋外などでの利用についてはあまり斟酌していない

 そもそも戸外でメモを取ったり、ちょっとしたメールの返信を書いたりするのは、それこそ手書きや携帯端末での操作で十分だと(個人的には)思っている。

 また、NICOLAという入力スタイル自体、腰を据えて大量の文章を入力するのには適していても、戸外でのこうしたメモ書きなどにはあまり向いていていないのではないだろうか。(注)

 (注)ただ、タブレットPCでの親指シフトの利用は、できるだけ早く可能になってほしいなとは思う。親指シフトキーボードが搭載された現行のノートパソコン(こちらなど)は、毎日持ち運ぶにはやはり重すぎる。
 かといって1キロ程度の親指シフト用ミニノートを開発するのは、技術的にも利益率の点でも相当難しいだろう。
 そう考えると、タブレットPCに親指シフト用のドライバを放り込んで、携帯型の専用キーボードを接続して使うというのが、(重量的にも経済的にも)もっとも使いやすい形ということになりそうである。
 おそらく、親指シフターの多くがこうした使い方を望んでいるはずであるが、そういった製品(ドライバ)が出てくる気配が一向に感じられない(笑)のは、技術的に難しいからなのだろうか、それとも収益が見込まれないからだろうか?
 詳しい方はぜひ、教えていただきたいところである(たぶん後者だとは思うけど…(苦笑)

 (以下、次号)

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コメント

新型ポメラに親指シフトが導入されましたね。しかし、親指キーがだいぶ離れててシフト化キットが必須っぽいです。
あ、こちらの記事を読んで、キットの販売元をぐぐってみました!
今も作られてるみたいです。
今度注文しようと思ってます。

投稿: かほ | 2011年11月15日 (火) 09時14分

 かほ様


 コメントありがとうございます。


 ポメラ、親指シフターのあいだで話題になっていますね。ただ、NICOLAで入力するには、少し小さい気が…(汗)。あと、iPadにつないだ場合は、親指シフトは作動しないという話もあります。


 まあ、この製品が売れることでNICOLAのユーザー層がちっとは拡大したり、他の企業が親指シフトの潜在的な市場性に気づいて新製品の開発に乗り出す可能性もゼロとは言えないので、親指シフターとしてはやはり「買い」なんでしょうかね(笑)


 P.S. 親指化キットの件ですが、販売元とはこちらのことでしょうか?7月に連絡を取った時点では、キットの製造はしていないという連絡を受けたのですが…。


 もし製造を再開したようでしたら、あるいは別の会社のことでしたら、詳細を教えていただけるとありがたいです。


 以上、取り急ぎご連絡まで。

投稿: shibue | 2011年11月15日 (火) 13時57分

確かにポメラでは小さい気がしますね。
親指シフトは、キーボードを選ぶ気がします。
実は、携帯用の親指キーボードを持ってますが、ほとんど使ってません。
アイフォンだとフリックのほうが速いし中途半端な製品かも……。

でも導入に迷っている方が、これで試してみるのはいいと思います(^o^)

あああっ。販売元、そちらです。
製造されてないのですか……。

でも、一応連絡とって見ますね。
また結果をお知らせします~。

投稿: かほ | 2011年11月16日 (水) 08時23分

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