NICOLAの習得手順~五十音の練習~(親指シフト導入記15)
1 前置き
1・1 反復練習のススメ
・タイピング・ソフト?
近年はゲーム感覚でキー配列をマスターできる(とされる)タイピング・ソフトも出廻っているようだが、筆者自身は(古い人間のせいか)あまりこの手のソフトに信を置いていない。
漢字の書き取りと同様、結局は反復練習して身体に刻み込ませるのが、タイピングをマスターする最短の道であるように思うからである。(注)
(注)もちろん、人には向き不向きがあるので、全ての人に反復練習を押しつけるつもりはない。タイピング・ソフトでの学習の方が向いていると思う方は、以下のページの「親指シフト練習ソフト」などを試してみていただきたい。
ただし、筆者自身はこのソフトを使用していないので、その使い心地や学習の効果については不明。
・はときいん?
とはいえ、ただ闇雲に反復練習をすればいいというわけでもない。たとえば多くの教則本は、ホーム・ポジションの右側のキー配列から練習を始めることを勧めているが、この方法で挫折したという人も少なくないのではないか?
おそらくその最大の理由は、キー配列に「言語的な意味」を見出せないからだろう。
たとえば、NICOLAのホーム・ポジションの配列(右側)は「はときいん」だが、そこには何の意味もない。無意味な文字列というのは、なかなか覚えられるものではないのだ。
1・2 五十音順に配列を覚える
そこで筆者が勧めるのは、まずは五十音順にキーの配列を覚えていくことである。
「あいうえお」から始まる五十音の並びは、われわれの脳裏(身体)にしっかりと刻印されており、反復練習する場合もごく自然な感覚で入力することができるからだ。
以下、練習内容の詳細について触れていくことにするが、ここで挙げる方法はもちろん、筆者のオリジナルではない。諏訪邦夫『キーボード革命』(中公新書)という本に多くを依拠している。(注)
(注)この本は既に絶版だが、アマゾン経由で古本屋から安く入手することができる(1円から…(汗)
以下で紹介する練習方法についてより詳細に知りたいという方は、現物を入手して目を通すといいだろう(トレーニング内容が書いてあるのは、第2章)
諏訪氏は医学者であるが、パソコンの黎明期に情報整理関連の本を多く出されていたので、名前を知っているという方も多いかもしれない。
ちなみに彼はこの本の中でローマ字入力を推奨しているのだが(笑)、タイピングの練習方法についてはNICOLAの学習にも適用できる内容だったので、ここに紹介する次第である。
2 具体的な練習手順
2・1 各行の練習(1日目)
・各語の位置確認と単独打鍵練習
まず、キーボードに貼り付けた配列表を見ながら「あ」の位置を確認し(キートップはできるだけ見ないようにする)、「ああああああああああ」と、10回ほど入力する。早く打つのではなく、キーの位置を頭のなかで確認しながら打つとよい。
ちなみに親指シフト配列の「あ」は、左親指キーを押しながら(ローマ字の)「S」キーを同時に押すことで表示される。このNICOLA特有の指遣いを「同時打鍵」と呼ぶ。
「あ」の位置と打ち方をだいたい覚えたら、「い」から「お」についても、同じ作業を繰り返す。
・連続打鍵練習
各キーの位置をだいたい覚えたら、次に「あいうえお」と連続して入力する。
入力したら「無変換」キーを押して無変換状態にし、続けてまた「あいうえお」と入力して「無変換」を押す(前の「あいうえお」は自動的に確定される)。これを5セットほど繰り返す。
ある程度スムーズに入力できるようになったら、今度は「おえういあ」で同じ作業を5セットほど繰り返す。
以下、「ういえあお」「えうおいあ」についても、同じ作業を5セットほど繰り返す。それが終わったら「か行」に移り、上と同じ作業を行なう。
この作業を、1日2~3行を目安に行なう(何行にするかは、タイプ練習に取れる時間によって決める)
2・2 2日目以降の練習スケジュール
翌日、前の日の続きの行から同じ作業(単独打鍵練習+連続打鍵練習)を行なう。文字列(「さしすせそ」「そせすしさ」「すしせさそ」「せすそしさ」)の入力のセット数はそれぞれ5回ずつ。
規定の行の練習を終えたら、前日の復習に入る。ただし、セット数は前日の半分でよい。前日のセット数が5回なら、次は3回。3回なら次は1回と、回数は順次、減らしていく。
ただし、前日のセット数が1回になっても、以後、各行の入力練習(「あいうえお」~「えうおいあ」まで)は継続して行なう。
なお、「や行」は「やゆよ」、「わ行」は「わをん」に省略しても構わない。練習する文字列は、各自工夫すること(「やゆよ」「よゆや」「やよゆ」「ゆやよ」等)
2・3 五十音が終わったら
・濁音・拗音の練習
わ行(ん)までが終わったら、今度は「小さいあ行(ぁぃぅぇぉ)」の練習に入る。練習内容やセット数はこれまでと同じ。なお、元の五十音の入力練習(1セット)はこの間も続けること。
拗音(小さいあ行)が済んだら、今度は濁音の「が行」の練習に入る。反対側の親指キーを押しながら「か」と入力すれば(クロス打鍵)、「が」と表示される。他の文字も同様。
以下、「ざ行」「だ行」「ば行」についても、同じことを繰り返す。
・半濁音の練習の注意事項
「ば行(濁音)」の練習が済んだら、次は「ぱ行(半濁音)」の練習に入るわけだが、これには注意が必要。
旧来の親指シフト(ワープロ專用機OASYSの配列)では、半濁音は「小指シフトキー+「は行」の文字キー」で入力する設定となっていた。
しかし、その後画定されたNICOLAでは、濁音とならない文字(「ら、めねい」)とクロス打鍵させる(反対側の親指キーを押しながら該当キー打つ)ことで、小指シフトキーを使わなくても半濁音が入力できるようになった。
Japanist(かなモード)ではどちらの方法でも半濁音を入力できる設定になっているが、一時的な英数モードの操作が使えるよう、NICOLA配列を覚えることを個人的にはお勧めする。(注)
(注)やまぶきRとJapanist(ローマ字入力を選択)を併用することによって、かなモードの時も小指シフトキーを打つことで一時的に英字入力することが可能となる。
詳しくはこちらの記事を参照。
・再び拗音と小さな「ッ」
半濁音の練習が済んだら、「小さなや行」の練習を行なう。入力する文字列は適宜、工夫すること(「ゃゅょ」「ょゅゃ」「ゅゃょ」「ゃょゅ」など)
最後に、促音の「っ」の練習。シングル打鍵の「ん」のキーを右親指シフトキーと共に押す。分かりやすいポジションにあるので、10回ほど入力すれば、だいたいの位置感覚は獲得できるだろう。
1日2行ずつ進んだとして、約10日で全課程を終える計算である。(注)
(注)なお、句読点や記号の入力練習については次回の記事で触れる練習メニュー(親指シフトキーボード入門)の中に含まれているので、そちらを参照のこと。
3 五十音の練習に当たっての注意事項
3・1 ワープロよりもエディタを
タイプ練習用のソフトに必須なのは、とにかく動作が軽いこと。起動するだけで1分近くもかかるようなワープロ・ソフトは、それだけで失格(注)。文章を書くことに特化したテキストエディタを使用するのが賢明だろう。
(注)タイピングの練習は隙間時間などに行なうのが望ましいわけだが、起動が遅かったりすると、「軽い気持ちで練習ファイルを開く」ことが困難になってしまう(貴重な練習時間も損なわれるし…)
さらにそのエディタについてだが、(後述するような理由で)縦書き表示ができるものが望ましい。Windowsに付属しているメモ帳は、この点で失格。
筆者自身は以前から使い慣れているWZ-EDITORを利用したが、これは高価なので初心者にはお勧めしにくい。
フリーのエディタで縦書き編集が可能なものとしては、CoolMintがある。関心がある方はぜひ、試してみていただきたい。
3・2 縦書きタイピングのススメ
五十音のタイプ練習をしている時に気づいたのだが、横書きよりも縦書きの方が確実にタイピングがはかどる。なんというか、自然な感じで入力できるのである。
その原因をつらつらと考えてみたのだが、おそらくはこういうことなのだろう。
・五十音表の記憶?
我々が五十音の文字列をタイプ練習をする時、頭に思い浮かべるイメージ(たとえば、「あいうえお」)は、ほぼ100%縦書き表示である。
その原因は、小さい頃に習う五十音表が縦書きになっていること(今でもそうだと思う)に由来するものと思われる。
以後、どっぷりと横書き文化に浸ることになるにも関わらず、五十音表のイメージだけは縦書きのままというのも何か不思議な気はするが、それだけ初期教育の影響力は大きいということなのもしれない。
・認知的な負担の違い
事の真相はさておき、五十音の入力に際して、頭に浮かんでいるイメージを90度回転させる工程が余計に加わる横書きよりも、イメージ通り入力することになる縦書きの方が楽に感じられたのは至極当然のことなのかもしれない。
ただでさえ慣れないキー配列に適応することで認知=身体システムに負荷がかかっているのだから、それ以上の負担は避けるに越したことはないだろう。
というわけで、以前、横書きで五十音の練習をして挫折したという方は、ぜひ縦書きでのタイピングを試してみていただきたい。思った以上に楽になるはずである。(注)
(注)ただし、これはあくまで五十音の文字列をタイプ練習する場合の話である。(後述するように)横書きのサンプルを見ながらタイピングする場合は、横書きの方が望ましいことは言うまでもない。
3・3 「あ行」に戸惑うなかれ
ローマ字入力から親指シフトへ移行しようとしている人の中には、最初の「あ行」の指使い(同時打鍵)にとまどい、挫けてしまう人も少なくないかもしれない(ローマ字入力では、「あ行」は簡単な指使いで済むから)
でも、そこはガマン。「か行」に入ると入力はすべてシングル打鍵となるので、指遣いはかなり楽になる(「た行」までは、すべてシングル打鍵)
「な行」で再び同時打鍵がやってくるが、次の「は行」はシングル打鍵オンリーなので、一息つくことができる…
以後、同時打鍵の多い「ま行」と「ら行」の次は、連続入力が3文字で済む「や行」と「わ行」(わをん)なので、1日2行ずつ進めていくのがベストな組み合わせと言えるのかれしれない。
ともあれ、「習うより慣れろ」である。
3・4 スピードよりも正確さを
反復練習を続けていると、次第にタイピングがなめらかになってくる。しかし、そのことをもって「上達した」と勘違いしないことが肝要だ。
というのも、それは単に指が直前の動きのパターンを学習しただけであって、キーの位置までを正しく把握したわけではないからである。
最初のうちは、速く打つことよりも、一打一打、正確に入力することを心がけよう。その際、頭の中で指の位置感覚をしっかりと意識しながら打つようにするといいだろう。
速く打とうとすると、そうした位置感覚の習得が疎かになりやすい。あわてず焦らず、一打一打、心を込めて打つようにしよう。ちょっと大げさかれしれないが(笑)、それが習得への早道である。
3・5 キーの入力感覚をメモする
上のこととも関連することだが、規定の文字列をただ機械的に反復練習するだけでは退屈なだけだし、キーの位置もなかなか覚えられない。
それを避けるための方法として筆者が考えたのが、それぞれのキーをタイプした時の感覚(使用する指や、他のキーとの位置関係など)を詳しくメモしておくことである。
たとえば、「は行」のメモは以下の通りである。
- 「ひふへほ」は、キーが下段に揃っているので覚えやすい。
- 「ひ」(左薬指)と「ほ」(右薬指)が左右対称の位置
- 「ふ」と「へ」は隣接
- 「は」は右アンカー・キー(目印キー)の左横(意外と盲点)
大切なのは、自分の「主観的な感覚」を「自分の言葉」で書くこと。たとえば、「さしすせ」は、筆者の指の感覚ではダイヤモンド型に配列されている。実際の配置はそうはなっていないのだが(笑)、指がそう感じたのなら、それをそのまま書けばよいわけだ。
こうして各キーについての入力感覚を書き溜めていき、タイプ練習の際にはそのメモの内容を思い出しながら打鍵する。こうすると、ただ漠然とタイピングしているよりも格段に早くキーの位置を覚えられるはずである。
ぜひ、お試しあれ。(注)
(注)参考までに、各キーについて筆者がメモした内容を晒しておくことにする(こちらを参照)
繰り返すが、これはあくまでもタイピングの際に筆者(の指)が感じた主觀的な印象を記録したものであって、客観的なキーの位置について記したものではない。入力者が変われば、メモの内容も当然、変わってくることだろう。
それゆえ、上記の資料はあくまで、ご自身がメモを作成する場合の叩き台としてのご利用にとどめていただきたい。他人の入力感覚(の記述)に引きずられて自身の入力感覚がないがしろにされるのでは、本末転倒だからである。
(以下、次号)
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コメント
初めまして。親指シフトを練習しているものです。
blogにリンク貼らせていただきました。
初心者でTBが分からなくてコメントさせていただきました。
投稿: しのはら | 2013年8月 7日 (水) 11時08分