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2011年10月28日 (金)

キーボードをめぐるドタバタ劇(上)(親指シフト導入記4)

1 REALFORCEキーボードの限界

1・1 親指シフトに向いている?

 やまぶきRの動作が安定していたおかげで、新しい入力方式の習得は順調に進んだ。練習を開始して2週間ほど経った6月の下旬頃には、NICOLAのキー配列もだいたい把握することができたように思う。

 ところが、その頃から首や肩が少しずつ凝るようになってきた。当時、筆者が使用していたのは、東プレのREALFORCE91UBKという、けっこう値の張るキーボードである(現在の価格はアマゾンで15000円程度)

 その柔らかくも弾力のあるキー・タッチは、識者や玄人(ヘビー・ユーザー)の間でも定評があるが、もともと筆者がこの製品を購入したのは、「親指シフト向きのキーボード」という評を読んだからであった。(注)

 (注)このキーボードを購入したのは、3年前の2008年3月。実はこのとき、筆者も勝間和代の『新・知的生産術』の影響を受けて、親指シフトに関心を持つようになっていた(ああ、お恥ずかしい)
 その流れで彼女のブログからこのページにたどり着き、「親指シフト向きのキーボード」として東プレのこの製品に出逢ったというわけである。
 ちなみに、そのときも親指シフトを軽く試してはみたのだが、私生活でいろいろあって(汗)時間が取れなくなり、結局は挫折してしまった(苦笑)
 ただ、このキーボードの使用感自体はとても素晴らしかったので、以後、メインの執筆装置として愛用するに至っている。

1・2 疲労の蓄積

 確かにJISキーボードの中では、REALFORCEの配列は親指シフトが打ちやすい方だと思う。

 しかし、以下の写真からもお分かりのように、文字によってはかなり不自然な指遣いをしなくてはならない(下記の写真は、親指シフトの「よ」を入力したときの模様)

Pic_reaforce

 キーを打つ回数が少ないときはさほど違和感を覚えなくても、このような窮屈な構えで入力を続けている限り、(意識されざる)小さな疲労は少しずつ身体に蓄積されていく。

 そして、タイピングの量ないし時間が一定のレベルを越える頃には、これらの疲労は「首や肩の凝り」という明確な症状となって表面化することとなった…。おそらくはそんなところなのだろう。

 そこで、しんどいことが大嫌いな筆者は、より快適に親指シフトを入力できる(そして、いつでもローマ字入力へと戻れる)JISキーボードを探すことにした。(注)

 (注)この時点では、まだ専用のキーボードを買う気にはなれなかった。もちろん、価格の問題もあったが、この肩凝りの経験によって、親指シフトへの信頼が揺らいでしまったことが大きい。
 入力速度が速くても疲労が貯まるのでは、執筆装置としては片手落ちじゃないか。そんな風に思ったのである。

2 親指シフトに適したキーボードとは?

 それでは、親指シフトに適したキーボードとはどのようものだろうか?これについては、既に多くのサイトで詳細な言及がなされている(こちらのページこちらのブログ等を参照)

 それらをまとめると、以下の2点に集約されるだろう。

2・1 特徴
(1)キーの感触が柔らかいこと

 NICOLAでは同時打鍵(親指シフトキーを押しながら別の指で文字キーを押す)を多用する。

 このため、キー・タッチが重かったり固かったりすると、指先から疲労が蓄積されていき、そこから容易に首や肩の凝りといった症状が招来されてしまう。

 したがって、(ローマ字入力派には人気の高そうな)クリック感や弾力感が強いキーボードよりも、キー・タッチがフニャフニャ/シャカシャカしている製品の方が、NICOLAの入力には適していることになる。

(2)親指シフトキーを代替させるキーが打ちやすいこと

 専用キーボードでは、親指で打鍵がしやすいよう、「B」のキーの真下で左右の親指シフトキーが分離する形態が取られている(下の写真を参照)

Pic_kb232_bsplit

 キーボードのこのような配列のことを、親指シフターは「B(下)割れ」とか「Bスプリット」と呼んでいるそうだ。

 JISキーボードでNICOLAを使用する場合、「無変換」「Space」「変換」のいずれかのキーに左右の親指シフトの機能を割り当てることになる。

 したがって、「無変換」と「Space」、あるいは「Space」と「変換」のいずれかの配置が「Bスプリット」であることが、親指シフトの利用にとって望ましいことになるわけだ。

2・2 課題
・該当製品の少なさ

 ところが、ネットで調べてみてすぐに分かったのだが、上記の2つの条件を満たすJISキーボードというのはきわめて少ない。特に「B下割れ」の条件を満たすものは、新しい製品の中にはほぼ皆無に近い状態だった。(注)

 (注)長い「Space」キーが中央にどっかり控え、その両脇に申し訳なさそうに「変換」と「無変換」キーが控える、という形態がほとんどである。

 もちろん、厳密に「B下割れ」とまではいかなくても、それに近い配置のキーボード(「B」と「N」の間で「Space」と「変換」キーが分離している)はいくつか存在する。(注)

 (注)たとえば、こちらのサイトを参照。

 ただ、(REALFORCEの経験から)「親指シフト向きの」というフレーズにすっかり懐疑的になっていた(笑)筆者は、あくまで「B下割れ」のキーボードにこだわった。

 その探索過程で見つけたのが、以下のENERMAX製の日本語109キーボードである。

3 B割れJISキーボードの購入と挫折

3・1 「B割れ」の誘惑
・判断の決め手

 この製品の情報源は、例によって2chの親指シフト関連のスレッドだった(笑)。購入の決め手となったのは、以下の写真である。「スペース」と「変換」がBキーの下できれいに分離していて、專用機に近い配列になっていることが分かる。

Pic_bsplit01

 キー・ストロークが浅い(2・2ミリ)のと、値段が割高なのが気になったが(アマゾンで6000円ほど)、件の肩凝りが解消されるならと、すぐに購入を決めてしまった。

・快適な入力感

 で、その使用感だが、確かに親指シフトの入力はかなり楽になった。REALFORCEでは窮屈だった「よ」や「ぬ」も、以下のように無理なく打つことができる。

Pic_bsplit02

 また、Realforceキーボードよりも心持ちキーのサイズが大きかったことも、こうした打ちやすさに貢献していたのかもしれない。

3・2 落とし穴
・キーの引っ掛かり

 しかし、「さすがBスプリット」と喜んでいたのも束の間、すぐにこのキーボードには大きな問題があることが分かった。

 まず、キーの不具合。まだ買ったばかりだというのに、「G」や「H」キーが時々引っかかって、元に戻らなくなるのである。(注)

 (注)最初は初期不良かと思ったが、どうやらこの系列の製品に以前からあった問題らしい。こちらの製品レビューを参照。

・浅いキー・ストロークの罠

 しかしそれ以上に大きかったのは、キー・ストロークの浅さに由来する問題。

 入力の際に発動された(運動)エネルギーがキーの動きの中で消費されきれずに、余った力が自分の身体に跳ね返ることで腕や肩の筋肉に負担を負わせ、「凝り」の症状がむしろ悪化してしまったのだ。

 もちろん、筆者がREALFORCEの深いストローク(4ミリ)に慣れていたせいもあるのだろう。もっとタイピングに習熟してインプットする力をよりコントロールできるようになれば、件の症状もいずれ解消されていたのかもしれない。

 ただ、親指シフト特有の同時打鍵という動作は、通常のシングル打鍵に比べて、より大きな運動エネルギーの投入が必要になる(どんなに入力に慣れても)

 そして、そのエネルギーを解消しきるには、やはり深めのキー・ストロークが不可欠であるように思われるのである。(注)

 (注)実際、富士通の専用キーボード(据え置き型)のキー・ストロークは3・8ミリと、かなり深めとなっている。こちらのレビューを参照。

3・3 はかなき運命

 事の真相はともかく、首や肩の凝りが悪化してしまった以上(そして、キーの不具合という明確な欠陥がある以上)、メインの執筆装置としては不適格である。

 というわけで、せっかく購入したB割れキーボードも、わずか4~5日でその使命を終えることとなってしまった(早い話が物置き行き)

4 親指化キットの幻影

4・1 Bスプリット後遺症

 かくて再び、キーボードをREALFORCEに戻すことにしたわけだが、B割れのシフトキーで入力する快感?を味わってしまったせいか、以前よりも親指シフトの入力が窮屈に感じられる。肩や首の凝りも相変わらず解消されない。

 このまま我慢してREALFORCEでの入力を続けるべきか、それとも別の新しいB割れキーボードを買うべきか。

 頭を悩ましている最中に筆者の視界に入ってきたのが、「親指化キット」という製品名だった。

4・2 親指化キットという幻の製品

 どうやら、キーボードの下段の空間に取っ手?のようなものをつけて、「スペース」と「変換」キーを「B割れ」に近い感覚で打てるようにする小道具らしい(以下の写真を参照)。しかもありがたいことに、REALFORCE専用と書いてある。

Photo

 「これで万事解決」と思いきや、HPの末尾には「この商品は販売終了しました」のつれない文字が…。どうやら昨年の春頃までは在庫があったらしい(涙)。あと1年早く、親指シフトを初めていれば…

 あきらめきれない筆者は、製品の製造元に連絡を取ってみた。HPには「親指化計画」という製品の紹介がされていたからである。

 しかし、帰って来た返事はやはり「現在はこの商品を扱っていない」というものだった(忙しくてHPを更新する時間がなかったらしい)

4・3 決心

 ことここに至って、ようやく筆者の踏ん切りがついた。

 たかがキーボードの事で、これ以上振り回されたくない。かといって、肩や首の凝りに耐えながら入力を続けるのはもっと御免だ。

 ならば、親指シフト専用のキーボードを買って、きっちりとその効能を確かめてやろう。その上で、肩凝りが治まらなかったり、入力速度の改善が生じないようなら、自分には縁のなかったものとして、NICOLAの習得は断念しよう、と。

 (以下、次号)

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