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2011年6月 7日 (火)

縦書き表示導入記(7) ライティングの問題

 さて、これまでは縦書きの表示面ばかりに触れてきたので、今度は「縦書きで書くこと」、すなわちライティングの側面について検討することにしたい。

7・1 文章が走ってくれない!

 実はこの記事(正確にはこのシリーズ)、当初は縦書きで書こうとしていたのである。せっかくブラウザに縦書き表示を導入するのだから、下書きの方も縦書きで統一してみよう。そう単純に思ったわけだ。

 ところがいざ書き始めてみると、なかなかキーボードが進まない。書き始めはいつもこんな調子だし、縦書きに慣れれば直に文章も走り出すだろう。当初はそう楽観していた。ところが、三日たっても四日たっても、どうにも調子が出ない。文言の些細な部分ばかりが気になってしまって、先に進まないのである。

 結局、業を煮やして五日めから横書きに戻すことにした。するととたんに、文章がスルスルと流れ出したのである。結局、下書きは基本的に横書きで行い、あらかた書き終わった段階で縦書き表示でチェックする。そうした手順が(暫定的に)確立されることとなった。

7・2 横書きの強み

 今回の経験で分かったのは、「どうも執筆の初期段階では、横書きの方が向いているらしい」ということである。もちろん「慣れ」の問題もあるから、この経験をただちに一般化するつもりはない。ただ、案外この感覚は的を射ているのではないかという気もしている。それはこういうことだ。

・アイデアと文章

 我々は文章を書くとき、頭の中に明確なストーリーが事前に出来上がっていて、それをそのままするすると吐き出しているわけではない(それならばどんなに楽か…)。とりわけ執筆の初期段階では、書きたいことや話の流れについての漠然としたイメージこそあるものの、それは不定形の霞(かすみ)や靄(もや)みたいなもので、放っておけばすぐに薄れてしまう実に頼りない代物である。

 しかし、この漠然とした代物をとにかく捕まえて、紙やモニターに書き出す。すると、文字列(あるいは図像)という具体的な形を纏うことで、この曖昧模糊としたイメージが明確な意味を持ったアイデアへと生まれ変わることとなる。そして、このように形象化されたアイデア(の断片)を見て、別の新たな「アイデアの素」が頭の中に生まれる。それが再び文字列として具体化され、それを見て新たなアイデアの素がまたわき出す…。

 文章とは、このように次々と生成されていくアイデア群の中から適当なものを取捨選択&加工処理し、(意味が通るよう)試行錯誤しながら繋ぎ合わせていくことでようやく完成する、手作りの織物のようなものなのである。

・筆者の文書作成術

 さて、横書きのメリットがもっとも発揮されるのはおそらく、「アイデアの繋ぎ合わせ」の段階であろう。それを検証するための素材として、筆者の文書作成のプロセスをここで紹介することにしたい。

 筆者の場合、下書き用のファイルとは別にメモ用のファイルを開いて、まずは頭に浮かんできたアイデアの素を書き出すことから作業はスタートする(ソフトはWZエディタを使用)。ブレインストーミングの段階だから、文章はこなれていなくても構わない。大切なのは頭の中にあるもやもやをとにかく吐き出すこと。そのためにまず求められるのはスピードであって、表現の正確さや緻密さにこの段階で気を配る必要はない(そんなことをしていたら、アイデアの素がどこかに消えてしまいかねないから)。誤字・脱字や不適切な表現があっても、それは後で修正すればよいだけの話である。

 一定量のアイデアを出し尽くしたら、関連しているものどうしが接近するよう並べ替えたり、それに見出しをつけたりする(KJ法もどき)。その過程で新たにアイデアがひらめいたら、もちろんそれも書き出す。こうして書き溜められたメモを参照しながら、別ウィンドウで開いた下書き用のファイルに本文となる文章を書いていく(モニターには常時、2つのウィンドウが開いていることになる)。

 文章を書いていって「どうもアカン」と思ったら、そのブロックを削除するのではなく、改行キーで下の方に移動させ(先のメモ用のファイルにコピーすることもある)、新たな文章を上から再び書いていく。こうしてまた煮詰まったら、前の文章群と照合し、切り貼りや組み替えを行いながら、続きを書き下ろしていく(その際、別枠のメモを適宜参照することはいうまでもない)。

・求められる一覧性・速読性

 このように執筆の初期段階では、別の箇所に書き溜めたメモやアイデアの断片を見ながら文章を書いていくというのが、(筆者に限らず)比較的一般的なライティングのスタイルであろう。そしてその際、視線は常にウィンドウ間やウィンドウ内の上下、あるいは別の資料とモニターの間を行き来することになるわけだから、表示スタイルも一覧性・速読性に秀でたものが望ましい。

 今回、執筆の初期段階での縦書きに筆者が挫折したのは、「横書きに比べて速読性・一覧性に劣る」という縦書き表示の抱える問題が、やはりなにがしか作用したためだと考えられる。一回の認知にかかる時間やエネルギーの差は僅少であっても、それが何度も繰り返されるうちに目の負担やストレスとして身体に蓄積されていき、やがては文章の執筆を妨げるまでに増大していったのかもしれない。

・縦書きのメリット

 もちろんこれまでも繰り返してきたように、縦書き表示にはメリットもある。横書きでは見逃されていた誤字・脱字や論理の飛躍に気づかせたり、ちょっとした表現の改善(漢字をかなで表現するとか、句点の位置をずらしたりとか)に寄与したり、気分をリフレッシュさせてくれたり(実はこれがいちばん大きかったりする)、といった点がそれだ。つまり、縦書きというのはどうもディテールの修正に適しているようなのである。

7・3 小活

 先にも書いたように、大切なのは「どちらの表示が下書きに適しているか」ということではない。表示を切り替えながら表現を煮詰めていくその「異化と発見のプロセス」こそが重要なのだ。

 まあ、今回の知見(アイデアの書き出しから文章の執筆・練り上げまでの工程は横書きがフィットし、最終段階でのディテールの修正は縦書きがフィットする)はあくまで、(まだ縦書きで書くことに慣れていない)現時点での暫定的な仮説にすぎない(注)。今後もいろいろな設定で縦書き・横書きを試してみながら、自分なりの「ライティングの方法論」を確立していけたらと考えている。

 (注)作家の片岡義男も、これに近い手順で執筆しているようだ(彼の場合、メモや下書きは横書きで書いて、それを縦書きでプリントアウトし添削するという形を取る)。詳細はこちらを参照のこと。

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