MARIA4thシングル・レビュー(5) 「ゆらり桜空…」のPVについて
4thシングル・レビューの第5回目です。今回の記事は、「ゆらり桜空…」のPVについてです。かなり妄想が炸裂していますが(笑)、案外、監督さんの意図を突いているのではないかと、ひそかに自負したりしています。
なおPVをお持ちの方は、適宜、映像を参照しながらお読みください。その方が納得度も深まるのではないかと思います。
では、本文の方をどうぞ。
5 PVについて
5・1 心象風景の映像化
・モノクロとカラーの巧みな使い分け
このPVが主人公の心象風景をかなり忠実に映像化した作品であることは、既に多くの方がお気づきであると思う。
たとえば、前半の映像が基本的にモノクロになっているのは、主人公の「閉ざされた心」を暗示するためのものであるし、後半になってそれまで上から下へと舞い降りるだけだった桜が舞い上がるようになったり、空の色がモノクロからカラーへ変わったりしているのも、主人公の心が開かれることで生じる「風景の変化」を端的に表現したものであろう。
筆者が個人的に「うまいなぁ」と思ったのは、イントロ後の前奏でフラッシュが焚かれる場面。桜の花びらが水面(みなも)を流れていく映像が映し出されているのだが、フラッシュによってモノクロだった画面が一瞬、桜色に色付くのだ。さりげない演出だが、その後の物語の展開(つまり、主人公が色彩感覚を取り戻すこと)が見事に予兆されているわけである。
・青空の映像の意味
また、桜が舞い上がっていく青空の映像が歪んだ四角形の形をしているのは、錯視効果によって画面に奥行きを出すことをねらってのことだと思うが、そこに別の意味を読み込むことも可能であろう(以下、妄想モードに突入)。
たとえば、この映像から感じられる奥行きは「青空の高さ」であると同時に、世界に対する主人公の「距離感」を示しているのかもしれない。つまり、彼女の心は世界へと開かれつつあるものの、まだ完全には開ききっていないわけだ(完全に心が開けているのなら、青空の映像も画面全体に拡がっているはずである)。
あるいは、ラストの歌詞(あなたと繋がっているこの手を ねぇ…ずっと離さないで…)でうかがえる主人公の不安のようなものが、ここで暗示さているのかもしれない。言うまでもなく主人公のこの不安は、自分が再び孤独な世界へと戻ってしまうかもしれないという恐れから来ている。そして、青空の映像を取り囲んでいる「漆黒」が、主人公の孤独な心象を表現しているというわけだ。
・もののあはれ
さらに連想を重ねるなら、この場面は主人公が経験してきた二つの世界とその移行(《陰》から《陽》へ、《ヒトリ》から《フタリ》へ、《閉ざされた世界》から《開かれた世界》へ)を象徴的に表現しているとも言える。
このような相反する世界を同時的に経験することで生じる感情こそ、日本人特有の「もののあはれ」という感覚なのであろう(注)。我々がこのPVに(そしてこの歌に)どうしようもなく惹かれてしまうのも、まさにそのためなのかもしれない…。
(注)こうした相反する世界の同時的な体験に伴う感情は、ことわざや慣用句・文学作品などから無数に引き出すことができる(「祭りのあとの寂しさ」「勝者の影に敗者あり」「復讐の味は苦い」、等々)。
そして、こうした「もののあはれ」の感覚は、春という季節に殊の外(ことのほか)研ぎ澄まされるように思う。我々がうららかな春の日にどうしようもなくもの哀しくなってしまったりするのも、このためなのかもしれない。
5・2 予算不足の意図せざる効果
とまあ、いろいろと妄想を重ねることは可能であるが、身も蓋もないことを言ってしまえば、「春の風景」を撮影するためにロケに行ったりセットを組み直したりするだけの時間も予算もなかったので、このようなCGに頼らざるを得なかった、というのが本当のところなのだろう(笑)。
しかし、(予算と時間の不足によって)表現の幅が切り詰められ、映像がこのように抽象化された結果、様々な想像(妄想?)の翼を羽ばたかせる余地が我々に残されることになったわけであるから(注)、それもまたよし、というところか。おっと、話がだいぶ脱線したので、元に戻すことにしよう。
(注)この件については、熱心なランタイマーにして現在は紙芝居パフォーマーでもある安部貴志氏の見解を参考にさせていただいた。
その他、メンバー達の抑制された動きや表情も、これまでのPVやライブでのはっちゃけた姿とは対照的な新たな魅力を醸し出している。 とりわけ演奏シーンが素晴らしく、ベースに専念する愛華マンの凛々しさや、感情を込めているのにどこか飄々(ひょうひょう)として見えるれいなの表情、あゆっぺのスタイリッシュな立ち姿(足の構えがカッコイイ)など、見所は尽きない。 しかし、やはり最大の魅力は舞衣ちんのアップでしょう(笑)。特に、ラストのアルカイック・スマイルの効果は男性ファンにとって殺人的といってもよく、「もののあはれ」の感覚とともに、気持ちよく「萌えの世界」へと昇天させてくれます(変な意味ではないので、誤解のなきよう(笑) 以上、このPVの魅力についていろいろと語ってきたが、最後に強調しておきたいのは、この映像はできればちゃんとした画面で見ていただきたい、ということ。 現在、YouTubeなどでもこの映像を視聴することはできるが、このPVの真髄(淡い色彩感覚やメンバー達の表情などの微細な美しさ)を味わうためには、それでは不十分だと思う。 既に通常版を購入された方も、余裕があるならぜひ「初回生産限定盤」を購入して、ちゃんとした設備でこのDVDを鑑賞していただきたい。この作品の素晴らしさを、より深く堪能できるはずだから。 (以下、次号)5・3 メンバー達の表情
5・4 ちゃんとした画面で見るべし
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